生命の音霊(おとだま)  尾崎元海

 花の木・梅
 春、万木ばんぼくに先がけて開花するので春告草はるつげぐさの別名がある。日本人と梅の関係はすでに千三百年の歴史を持ち、中国から渡来した。果実は古来から食用と薬用の両面で重要なものであったが、梅干しは誰もが知る食品である。今は一般の花といえば桜を指すのが常識のようにいわれるが、古い時代には梅こそが「花」だったのである。菅原道真すがわらのみちざね飛梅とびうめの故事以来、日本人の精神文化とも深くかかわりを持つ木の花となった。日本人の心にかなっている梅は、詩歌にもよく詠まれるが白梅しらうめが主である。
 初春に咲き出す梅の花のひびきは、かぐわしい香りによって人の心に喜びを与え、訪れてくる春への希望を胸にふくらませる。古いからを脱ぎ捨て、新しい未来を開いていかんとする人間の進化を、その霊妙なる光の働きによって手助けしてくれているのだ。心の内奥にひそむ勇気や正義心、そして天地や人の奥にある本然ほんぜんの氣・神のみ心に目覚めさせようと、圧倒する美のパワーを発現している。
(風韻誌2018年5月号)