短歌(春) 安井信子

桜散り花敷きつめし山道はうすくれない裳裾もすそなりけり

うぐいすの声冴えわたる谷越えてひのきの森を抜けて空まで

晴れようと降ろうと雲は面白し雲あればこそ空は美し

とっぷりと日も暮れてなお薄青き空はちまたを抱く慈悲の色

村里に春雨止まず電線に小雀一羽寂然じゃくねんとして

プチプチと芽吹き溢れるモリモリと伸びる広がる若葉若草

(風韻誌2018年5月号)