詩「水仙」 安井信子

 玄関を開けて入るとほのかな香り
 座敷に生けた水仙の芳香が漂っている
 水仙は静かで控えめな花
 六枚の可愛い白い花びらの真ん中に
 きれいな黄色の小さなカップを付けて
 シンプルが好きですと言っているように
 茎も葉っぱもすっとまっすぐに伸びる
 まだ寒い春先から生き生きと香りは高く
 けれどもほどよい品よき匂いを漂わせ
 目立たない庭の隅や草原の緑に咲く
 その花は黙って人の悲しみを清め
 天に向かってまっすぐに立ち
 天を信じてつつましくこうべを垂れる

 (風韻誌2019年3月号)